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福岡地方裁判所 昭和52年(行ウ)37号 判決 1981年4月30日

原告 高城六郎 外一八一名

被告 北九州市長

訴訟代理人 上野至 中野昌治 日高静男 外六名

主文

本件訴えをいずれも却下する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  原告ら

(一) 被告が、昭和四八年一〇月二八日執行した北九州都市計画事業徳力土地区画整理審議会委員選挙は無効であることを確認する。

(二) 訴訟費用は被告の負担とする。

2  原告増田至

右選挙に関し、原告増田至がした選挙の効力に関する異議申出に対し、被告が昭和五二年九月一三日にした決定を取り消す。

3  原告高城六郎

右選挙に関し、原告高城六郎がした当選の効力に関する異議申出に対し、被告が昭和五二年九月一三日にした決定を取り消す。

二  本案前の答弁

主文と同旨。

三  請求の趣旨に対する答弁

(一)  原告らの請求をいずれも棄却する。

(二)  訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  北九州市は、同市小倉南区徳力地区において、土地区画整理事業(正式名称は北九州都市計画事業徳力土地区画整理事業という。以下、本件土地区画整理事業と略称する。)を施行したが、被告は、土地区画整理法五六条に定める土地区画整理審議会を設置するため、昭和四八年一〇月二八日、右審議会委員の選挙(以下、本件選挙という。)を実施した。

2  原告らは、いずれも右土地区画整理事業の施行区域内に土地を所有し、あるいは施行区域内の土地について借地権を有するものであつて、本件選挙の選挙人である。

3  本件選挙には、次のとおり重大かつ明白な違法があるから無効である。

(一) 本件選挙の施行と開票に至る経緯

(1) 北九州市は、昭和四六年ころ、同市小倉南区徳力地区一帯についてスプロール現象が顕著になつてきたこと、国道三二二号線の交通渋滞が重大化したこと及び同地区が志井川の氾濫による浸水常襲地帯化したことなどを理由とし、同地区に健全な市街地を造成すると称して、同地区において市施行の土地区画整理事業を施行することを決定した。そして、昭和四七年一二月に基本計画の決定及び区域決定がなされ、その後市議会による右土地区画整理事業の施行規程の可決制定、設計概要の認可及び事業計画の決定等を経て、昭和四八年一〇月二八日、本件選挙が実施される運びとなつた。

(2) ところが、北九州市は、本件土地区画整理事業について関係住民に極めて不十分な説明しかしていなかつたことから、住民の間に右事業に対する不安や混乱を生じさせていたのみならず、本件選挙に先き立ち施行区域内の未登記の借地権者に対し、土地区画整理法六三条三項、八五条による権利申告の手続を教示していなかつたため、多数の借地権者が選挙権を行使できない事態も生じ、関係住民の不満をつのらせていた。

(3) このようななかで、本件選挙の投票が実施されたが、投票終了後に、選挙人等から本件選挙の共有者代表選任手続について市が誤つた指導をした結果選挙資格を有しながら投票できなかつた者のいる事実が指摘され、これに端を発して、選挙人等から本件選挙について疑義や不満が表明されるに至つた。このため、施行区域内の住民代表と市が協議した結果、投票日の翌々日の昭和四八年一〇月三〇日、市当局によつて「本日徳力区画整理事業の実施に伴なう審議会委員の選挙について関係者の皆様と話し合いをいたしましたところ、市当局の考え方について充分なるご理解をいただけない点もありましたので、後日さらに円満なる話し合いがつくまで開票を凍結することを約束します。」との内容の確認書が作成され、ついで被告は、同年一一月二六日付「北九徳区第一七一号」により右確認書を公式に追認するとともに、「(1)選挙事務を中断し、投票箱は市役所内に持ち帰り厳重に保管する。(2)今後徳力地区の発展策としての区画整理事業の実施について更に関係権利者のご意向を充分調査して、今後の具体的方針を決定する。」旨、文書によつて本件選挙の全有権者に通知し、本件選挙の開票が凍結された。

(4) しかし、その後被告は、関係住民との間の右約束を履行せず、住民側からの度重なる申し入れも無視してほとんど話し合いをしないまま、昭和五二年八月一八日、突如一方的に本件選挙の開票手続を行つた。

(二) 選挙無効原因

(1) 本件選挙は、投票日から三年一〇か月近く経過したのちに開票手続が行なわれた。

土地区画整理法施行令三二条によれば、土地区画整理審議会委員選挙の開票は、投票の当日又は翌日に行なうこととされており、本件選挙は右規定に反するのはもとより、選挙としての根本的な要件を欠くものである。すなわち、およそ選挙が選挙人の意思を忠実に反映すべきことはいうまでもないが、選挙人の意思は、情勢の変化や時間の経過によつて変動するものであるから、選挙人の意思を選挙結果に忠実に反映させるためには、投票後直ちに開票され、すみやかに当選人の決定がなされなければならない。このことは、あらゆる選挙で行なわれていることであつて、いわば自明の理である。ところが、本件選挙においては、右に述べたとおり開票が投票日から三年一〇か月近くも経過したのちに実施されているのであつて、その間に選挙人たる土地所有者及び借地権者が大幅に変更し、しかも昭和五一年九月には本件土地区画整理の事業計画の変更もあり、選挙人の区画整理についての考え方は投票時にくらべて大きく変化している。本件選挙は、右事業計画に対する賛否を最大の争点としていたのであり、その事業計画が大幅に変更されたのちになされた開票の結果は、これによる選挙人の意思の変化を全く反映しておらず、このような選挙が違法であることは明白であるといわなければならない。

(2) また、本件選挙には、執行者である被告が選挙人に確約した手続に違背した違法がある。

既に述べたとおり、被告及び北九州市は、関係住民に対し話し合いによる円満な解決がなされるまで本件選挙の開票を凍結することを確約したが、それは被告が本件選挙の開票手続を行なうための不可欠の手続的制約であつて、一方的な破棄を許さない拘束力があるものであるから、右確約を履行しないままなされた本件選挙の開票手続が違法であることは明白である。

4  原告増田至は、昭和五二年八月三一日、土地区画整理法施行令四〇条に基づき被告に対し、本件選挙の効力に関する異議を申し出たところ、被告は、同年九月一三日付で右異議の申出が本件選挙期日から二週間を経過したのちになされたものであるから、同法に定める異議申出期間を経過しているとの理由により、右異議申出を却下する旨の決定をした。

しかし、本件選挙及びその開票は、法の本来予想しない極めて異常な経緯をたどつたものであつて、このような場合に右施行令四〇条の規定をそのまま適用し、投票日を異議申出期間の起算日とすることは不合理であり、右施行令三二条が開票は投票の当日又は翌日に行なう旨定めていることも考慮すると、開票後少なくとも一三日間を異議申出期間として許容しているものと解すべきである。そうだとすれば、本件選挙の開票日は昭和五二年八月一八日であるから、同月三一日になされた原告増田の異議申出は、適法な異議申出期間内にされたものであるから、被告の右却下決定は理由がない。

5  原告高城六郎は、昭和五二年八月三一日、右施行令四〇条に基づき被告に対し、本件選挙の当選の効力に関する異議を申し出たところ、被告は、同年九月一三日付で右異議は選挙に当選しなかつた者のみが申し出ることができるが、原告高城は右当選しなかつた者にあたらないとの理由により、これを却下する旨の決定をした。

しかし、右施行令には、当選の効力に関する異議申出権者を選挙に当選しなかつた者に限る旨の明文はなく、右異議に関する規定の趣旨に照らしても、そのように限定して解釈しなければならない理由はない。したがつて、右却下決定も理由がない。

6  よつて、原告らは、本件選挙が無効であることの確認を求めるとともに、原告増田、同高城は、それぞれの異議申出に対して被告がした却下決定の取消しを求める。

二  本案前の被告の主張

1  選挙に関する訴訟は、本来裁判所法三条一項の定める法律上の争訟にあたらず、法律によつて特に出訴できる旨の明文の規定があり、その出訴権者、出訴手続等の具体的な定めがあつてはじめてこれを提起することが許されるものである。およそ選挙は、選挙人団を構成する多数人が特定の地位につくべき者を選定する行為及びその手続を総称するものであつて、その選定行為の基礎となる選挙権は、選挙人団の協同利益という拘束を伴つた、選挙人団の機関の一員としての法的地位であり、人民の個人的権利とはその性質を異にする。したがつて、選挙に関する訴訟は、法主体間の個人的な利害の衝突の解決調整を目的とする本来の法律上の争訟ではなく、選挙手続の公正を担保するため、法令が特別に許容した訴訟形態にほかならない。このことは、行政事件訴訟法(以下、行訴法という。)五条が選挙訴訟を民衆訴訟の典型的な例として掲げていることからも明らかであり、選挙訴訟はすべて民衆訴訟によつて処理されるべきであつて、通常の行政訴訟の提起は許されない。

2  ところが、本件の土地区画整理審議会委員選挙については、土地区画整理法施行令四〇条において、選挙人又は当選しなかつた者は、委員の選挙又は当選の効力に関し異議の申出をすることができる旨を定めるだけで、なんら訴訟の提起についての具体的な定めは存しない。もつとも、右施行令四〇条五項には、「委員は選挙又は当選の効力に関する異議の申出又は訴訟の提起に対する決定又は判決が確定するまでは、その職を失わない」との規定があるが、右規定は公職選挙法二〇三条、二〇四条等のように、選挙人又は当選しなかつた者の資格において訴訟を提起することができる旨を具体的に定めた規定ではなく、単に委員の職が決定又は判決の確定するまでは有効に存続するという当然の事柄を注意的に定めたものに過ぎず、しかも右規定は、法律ではなく施行令中に定められたものであつて、裁判所法三条一項や行訴法四二条にいう法律の定めともいえない。

3  そうすると、本件選挙の選挙人としての資格に基づき、本件選挙の無効確認を求める原告らの訴えはもとより、原告増田、同高城がした異議申出に対する被告の却下決定の取消しを求める同原告らの訴えも、訴訟の提起を認める法律上の規定を欠くものであつて、いずれも不適法であるから却下されるべきである。

三  本案前の被告の主張に対する原告らの主張

1  本件選挙の無効確認請求について

(一) 本件選挙の無効確認を求める原告らの訴えは、行訴法三条四項の無効等確認の訴えにあたり、抗告訴訟として適法なものである。

被告は、およそ選挙に関する訴訟は本来法律上の争訟に該当せず、民衆訴訟として法が許容する場合にのみこれを提起しうるものと主張するが、各個の訴訟が法律上の争訟であるかどうかは、その具体的な事案及び争点を検討することなしには即断できないのであり、以下に述べるとおり原告らの右訴えについては、行訴法の定める無効等確認の訴えとしての要件に欠けるところがないのであるから、なんら不適法なものではない。

(二) 行訴法の定める無効等確認訴訟の対象は、行政庁の「処分若しくは裁決」であり、ここにいう「処分」が「行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為」を総称していることは明文上明らかである。しかして、被告が施行した本件選挙が、狭義の「行政庁の処分」にあたるかどうかは暫く措き、少なくとも「公権力の行使に当たる行為」であることは疑う余地がないというべきである。問題は、原告らに本件選挙の無効確認を求める法律上の利益があるかどうかということであり、このことは行訴法三六条の規定する無効等確認訴訟における原告適格を満たす要件であるとともに、原告らの訴えに法律上の争訟性を具備させるものである。そこで、原告らの法律上の利益について以下に詳論する。

(三) 土地区画整理は、土地の区画形質を変更して換地処分を行なうことをその本質としており、土地区画整理が実行されると、施行区域内の関係住民は家屋の強制移転、土地区画の形状の変更、所有地及び借地の場所の変更、減歩等の事態に直面する。このように、土地区画整理事業は、関係住民の財産権に重大な影響を及ぼすものであるから、その内容、実体の形成手続等に関係住民が参加し、意見の反映を図ることが重要であつて、これを確保する唯一の恒常的機関として土地区画整理審議会が設置されているのである。そして、土地区画整理法によれば、右審議会は、施行者に対し換地計画の決定、変更等の事項について意見を述べる権限のほか、評価員の選任等の一定の重要事項について同意を与える権限をも有しており(同法六五条一項、九一条ないし九三条等)、諮問機関であると同時に参与機関としての性格も併有している。

右に述べた土地区画整理審議会の意義、性格からみれば、その審議会委員選挙に関する争訟と関係住民との関係は、公職選挙法上の選挙に関する争訟と選挙民との関係とは著しく異なつている。すなわち、審議会委員選挙において、関係住民は単なる選挙人として関与しているのではなく、土地区画整理事業によつて財産権に重大な影響を受ける具体的な利害関係人としての立場から選挙に関与しているのである。このことは、右選挙の選挙権、被選挙権が自然人だけでなく法人にも与えられ、公選による公職の候補者となることができない公務員も委員になることを容認されていること及び委員に選任されても施行区域内の土地の所有権又は借地権を失えば委員の地位を失うことなどからも論証しうるところである。

したがつて、土地区画整理審議会委員の選出について原告ら関係住民の意思が正しく反映されなければ、換地処分等の原告ら関係住民の財産権に重大な影響を及ぼす行為についてその意思が反映されないことになり、その結果不当な換地処分等により原告らの財産権が違法に侵害されるおそれが生じることはいうまでもない。

行訴法三六条は、「当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者」について無効等確認の訴えの原告適格を認めているが、その趣旨は、行政処分はたとえ無効又は不存在であつても、行政庁の側でこれを適法有効として後続処分をするおそれがあるから、その処分の発動前において不安な状態を解消し、損害を未然に防止することにある。

最高裁判所昭和四一年二月二三日判決(民集二〇巻二号二七一頁)は、土地区画整理事業計画決定について、事件の成熟性及び出訴を認める必要性の点から抗告訴訟の対象としての行政処分性を否定したが、本件選挙は、右の判旨からしても事件の成熟性及び必要性が充分認められるのであつて、仮に本件選挙が抗告訴訟の対象とならないとすれば、右判決の少数意見の述べるように、その後の行為は無駄な手続を積み重ねる結果となり、却つて混乱が増大することは明白といわなければならない。本件選挙は、既に述べたとおり重大明白な瑕疵を有する無効なものであるが、被告、北九州市はこれによつて選出された審議会を適法有効とみて土地区画整理事業に関与させ、事業を進行させているのであり、今後換地処分等の公権力の発動される危険性は確実に存在しているのである。

原告らは、単に本件選挙の選挙人としての資格だけを根拠として本件訴訟を提起しているのではない。原告らはいずれも本件土地区画整理事業の施行区域内の土地について所有権又は借地権を有するものであり、本件選挙に後続する換地処分等により財産権に重大な影響を受けるおそれがある者として、本件選挙の無効確認を求めるにつき法律上の利益を有するのである。

(四) 以上に述べたとおり、本件選挙の無効確認を求める原告らの請求は、行政庁の公権力の行使に対する抗告訴訟として適法である。

2  原告増田、同高城の異議申出に対する決定の取消請求について

(一) 右請求は、行訴法三条三項の裁決の取消しの訴えにあたり、抗告訴訟として適法であるのみならず、同法五条の民衆訴訟としても訴えの提起の許容される法令上の根拠を有するものである。

(二) 原告増田、同高城の異議申出に対し被告がした前記各却下決定が、行訴法三条三項の「裁決」に該当することは明白である。そして、右原告らに同法九条の「裁決の取消しを求める法律上の利益」の存在することは、本件選挙の無効確認を求める法律上の利益について既に述べたところと同様であるから、右原告らの訴えは裁決の取消しの訴えとして適法なものである。

(三) 仮に、右原告らの訴えが裁決の取消しの訴えに該当しないとしても、次のとおり右訴えは民衆訴訟として許されるものである。すなわち、土地区画整理法施行令四〇条は、第一項ないし第四項において選挙人又は当選しなかつた者の異議申出について規定したうえ、第五項において、「委員は、選挙又は当選の効力に関する異議の申出又は訴訟の提起に対する決定又は判決が確定するまでは、その職を失わない。」と規定し、更に同施行令四一条は、「選挙又は当選の効力に関する異議の申出又は訴訟の結果選挙の全部又は一部が無効となつた場合においては、再選挙を行なわなければならない。」として、同条二項以下で再選挙の手続について規定している。そして、右施行令四〇条の標題が、「委員の選挙及び当選の効力に関する異議の申出等」として、異議の申出及び訴訟についての規定であることを明示していること並びに規定の順序等を考慮すれば、右施行令は選挙又は当選の効力に関する異議申出の結果について、訴訟の提起を承認し、その出訴権者及び相手方については同四〇条一項の規定を準用して、異議の申出をした「選挙人又は当選しなかつた者」が異議について決定をした「市町村長等」を被告として出訴できることを定めたものと解すべきである。

被告は、右施行令の規定が裁判所法三条一項及び行訴法四二条にいう「法律の定め」に該当しないと主張するが、右「法律の定め」には法律の委任によつて制定された政令も当然含まれると解すべきであり、右施行令の規定は土地区画整理法の委任により制定されたものであるから、これを民衆訴訟を許容した規定と解釈すべきである。

四  原告らの主張に対する被告の反論

1  原告らは、本件選挙の結果成立した審議会が関与してなされる換地処分等により、原告らの財産権が侵害されるおそれがあることをもつて、右選挙の無効確認等を求める本件各訴えの法律上の利益がある旨主張する。

しかし、まず本件選挙とその後になされる換地処分等の内容は直接に結びつくものではない。審議会委員は、選挙人全体の代表者であつて個々の選挙人の代理人ないし代弁者ではないうえ、審議会は利害関係者個人の利益擁護を直接の目的としたものではなく、事業に利害関係人の意思を反映せしめることによつて、施行者の事業の適正な実施を保障しようとするものである。そして、選挙によつて選ばれた委員は法律上自由な意思決定により意見を述べるものであり、法律上、制度上、審議会委員の選挙によつて換地処分等の内容が決定される関係にはない。このことは、国会や地方公共団体の議会が自己の権利を侵害する法律や条例を制定するおそれがあるから、自分には国会や地方公共団体の議員の選挙を争う訴えの利益があるといえないことと同様である。しかも、土地区画整理審議会に原告ら主張のとおり同意権は与えられているが、その本質が諮問機関であることに変りなく、審議会が換地処分等の内容を決定するわけでもないのである。したがつて、原告らのいう財産権侵害のおそれは、確実性はもとより蓋然性もない単なるおそれに過ぎず、このような不利益のおそれをもつて訴えの利益を基礎づけ得ないことは多言を要しない。

つぎに、原告らは、本件選挙とその後の換地処分等が、行訴法三六条の先行処分と後続処分の関係にある旨主張するが、そこで引用する最高裁昭和四一年二月三日判決は、土地区画整理事業における事業計画の決定、公告、仮換地の指定、換地処分という同一目的を達成するための一連の手続内にある行為で、先行行為の違法性が後続行為の違法性として承継される場合に関するものであつて、そのような場合には、一連の手続のどの段階で事件の成熟性があるかが問題とされたり、爾後の行為は無駄な手続を積み重ねるということも考えられるが、本件の場合は、土地区画整理事業実施のための手続とはいえ、本件選挙とその後の換地処分等とが同一目的を達成する一連の手続といえないことは明らかであつて、その間に事件の成熟性を問題とする余地もないし、違法性の承継もないから、爾後の行為が無駄になるということもない。要するに、選挙に関する違法を争う法律上の利益については、選挙手続内における利益の問題として、他と独立して考察すべきものである。

以上のとおり、いかなる点からみても、換地処分等による財産権侵害のおそれをもつて、原告らの訴えの利益を基礎づけることはできない。

2  土地区画整理法施行令四〇条、四一条は、原告ら主張の民衆訴訟を許容した規定には該当しない。

施行令は、いうまでもなく行政機関が制定する命令であり、右命令の中には執行命令と委任命令とがあるが、執行命令は法律事項を規定しえず、法律を執行するに必要な個別的、具体的な細目、技術的、手続的事項に限られ、委任命令については、法律による明確な範囲、基準のない一般的、包括的委任は許されず、かつ内容的にも法律の解釈的、補充的な規定に限られている。既に述べたとおり、民衆訴訟に関する規定は法律事項であるところ、土地区画整理法には、本件の審議会委員選挙について選挙ないし当選の効力に関する訴訟についての規定は一切ないのであるから、この点につき法律の委任があるとはいえず、右施行令はその名称からしても執行命令と解されるのであつて、執行命令には法律事項を規定しても効力がない。そして、右施行令四〇条、四一条の規定の形式、文言も法律に選挙又は当選の効力に関する訴訟の規定があることを前提とするものであつて、権利創設規定の形式をとつてはいない。そうすると、右条文中の選挙又は当選の効力に関する訴訟に関する部分は、法律に選挙又は当選の効力に関する訴訟を認める権利創設規定がない以上、具体的適用の機会がない意味のない規定といわざるをえないのである。

五  請求原因に対する認否及び主張

1  請求原因に対する認否

(一) 請求原因1、2の事実は認める。

(二) 同3について

(1) (一)の(1)、(3)の事実は認め、(2)の事実は否認し、(4)のうち本件選挙の開票手続が昭和五二年八月一八日に行なわれたことは認めるがその余は否認する。

(2) (二)の(1)のうち、土地区画整理法施行令三二条が選挙の開票は投票の当日又は翌日に行なうと規定していること及び本件選挙の開票が投票日から三年一〇か月近く経過したのちにされたことは認めるが、その余は争い、(2)は争う。

(三) 同4及び5のうち、原告増田、同高城が主張のとおりの異議申出をし、被告が却下決定をしたことは認めるが、その余は争う。

2  被告の主張

(一) 本件選挙の適法性について

本件選挙は、昭和四八年一〇月二八日、徳力小学校講堂において適正な手続を経て投票が完了した。そこで、選挙管理者が、定刻午後八時に開票の宣言をしたところ、一部有権者より共有者代表選任について市の指導に間違いがあつたとの理由で抗議があり、このことが開票中止の要求にまで発展し紛糾状態が続いたため、翌二九日午前四時三五分に開票を一時見合わせることとなつた。ついで、同日午後七時三〇分から右選挙場において、市の担当責任者出席のもとに関係者に対し、共有者の代表選任手続について法的に問題はなく、選挙は有効であることについて理解を得るよう努力したが、出席した約二五〇名の地元関係者らが、開票を認めることは区画整理事業を認めることになるとして強い態度で臨み、前日に引き続き会場が混乱して開票事務を再開することが困難となつたので、同月三〇日午前一時三〇分ころ、右事態を収拾するためにやむを得ず、関係者らが要求した確認書を取り交わし、本件選挙の開票を暫く凍結することを約した。このように、本件選挙は開票宣言後に生じた不測の事態により開票が凍結されていたものであるが、被告は、その後関係権利者に対し、開票事務の再開について理解を得るために最善の努力を傾けたのであり、他方これ以上開票の凍結状態を継続させることは、徳力地区における交通渋滞の緩和対策及び河川の防災対策等の緊急を要する事業の施行に支障をきたし、かつ住民の不安を増大させるものとの判断から、本件の開票を実施したものである。

原告らは、本件選挙の投票日から開票までの間に選挙人たる土地所有者及び借地権者が大幅に変更し、開票結果が選挙人の意思を反映するものとはいえない旨主張するが、選挙は一定の基準日をもつて選挙人名簿を調整し執行するものであり、基準日以後の変動により意思を表明できない関係権利者が存在したとしても、制度上やむをえないものといわざるをえず、また本件に関する選挙人の現実の変動も、選挙権者一三二六名中約一五〇名程度に過ぎない。

また、選挙は法令の規定に従つて執行するものであつて、その性質上合意もしくは話し合いによつて手続的制約を加えうるものではないから、原告ら主張の確認書の存在は、なんら本件選挙の開票手続について法的な拘束力を有するものではない。

(二) 異議申出に対する各却下決定の適法性について

(1) 原告増田に対する却下決定

土地区画整理法施行令四〇条は、選挙の効力に関する異議申出は、選挙期日から二週間以内に行なわなければならない旨定めているが、ここにいう選挙期日が投票日を指すものであることは、同条中の当選の効力に関する異議申出に関する規定との対比や公職選挙法が選挙期日を投票日としていることなどから明らかである。

そして、選挙に関する争訟制度は、法令の規定によつてはじめて創造されるものであるから、右施行令の定める異議申立制度に関する規定はその文字どおり解すべきであつて、安易にその意義を拡張したり類推するなどすべきではない。

したがつて、選挙の効力に関する異議申出期間の起算日を投票日として、右期間経過を理由に原告増田の異議申出を却下した被告の決定は正当である。

(2) 原告高城に対する却下決定

右施行令四〇条は、「選挙人又は当選しなかつた者は、選挙又は当選の効力に関する異議」の申出ができる旨を規定しているのであるから、選挙人は「選挙に関する異議」を、当選しなかつた者は「当選の効力に関する異議」を申し出ることができることが、文理上明らかである。もし、「当選の効力に関する異議」について、選挙人の資格で申し出ることができるのであれば、審議会の委員は選挙人のうちから選挙されるのであるから(同施行令二三条)、わざわざ選挙人の他に「当選しなかつた者」を異議申出権者として規定する必要は全くないはずである。

したがつて、原告高城に対する却下決定にもなんら違法はない。

第三証拠<省略>

理由

一  本件選挙の無効確認請求について

1  原告らは、本件選挙の無効確認請求が、行訴法三条四項の「無効等確認の訴え」として適法である旨を主張するので、まずこの点を検討する。

一般に選挙とは、選挙の告示から候補者の屈出、選挙人の投票、その結果の審査、当選人の決定等一連の選挙管理機関、候補者、選挙人の行為によつてなる集合的行為であり、選挙無効確認訴訟における訴訟の対象は右集合的行為としての性質をもつ選挙全体の効力であると解されるが、被告が施行した本件選挙をもつて抗告訴訟の対象となりうる行政庁の処分といえるかどうかは、右選挙の性質からすると疑問の余地がないわけではないが、少なくとも本件選挙に行政庁の公権力の行使としての側面があることは否定しえないから、本件選挙を行政庁の処分とみて抗告訴訟の対象とすることもできないわけではないと解される。

しかし、本件選挙を右のように解したとしても、原告らは、本件選挙によつてなんら具体的にその権利または法律上の利益を害されるものではないから、本件選挙の無効確認を求める法律上の利益を有しないものといわなければならない。

この点について、原告らは、いずれも本件選挙の選挙人であると同時に本件土地区画整理事業の施行区域内に土地所有権または借地権を有するものであるから、右事業について関係権利者の意見を反映させる唯一の恒常的機関である土地区画整理審議会委員選挙に無効原因が存したとすれば、右事業に原告らの意思が正しく反映されないことになり、その結果右事業の施行過程でなされる換地処分等の行政処分により、原告らの財産権が不当に侵害されるおそれがある旨主張する。

しかしながら、土地区画整理審議会が設置される趣旨が、土地区画整理事業の施行にあたり関係権利者の意見を反映させてその権利を保護することにあることは原告らの主張するとおりであるが、右審議会が適正な構成員によつて構成され、その結果事業の過程においてなされる行政処分に関係権利者の意思が適正に反映されるべきことは、本件選挙の選挙人全体に共通する一般的、抽象的な利益であつて、いわば土地区画整理事業という枠内における公益というべき性質のものであるから、原告らに右利益を侵害されるおそれがあるとしても、それだけでは、当事者間の具体的な権利義務に関する法律上の争訟としての抗告訴訟を基礎づけるに足りる法律上の利益にあたらないというほかはない。

また、原告らは、本件選挙とその後になされる換地処分等の行政処分が、行訴法三六条の規定するいわゆる先行処分と後続処分の関係にあるから、本件選挙の後続処分としての換地処分等により損害を受けるおそれがある者として本件選挙の無効確認を求める原告適格があるとも主張するが、本件選挙とその後になされる換地処分等の行政処分とが同条にいう先行処分と後続処分の関係に立つかどうかはさて措き、同条の規定する後続処分による損害のおそれも、無効確認訴訟が抗告訴訟である以上具体的な権利、利益に対する損害のおそれを指すことは明らかであるところ、原告らが主張するところの、本件選挙後になされる換地処分等によつて受ける財産権侵害のおそれも、一般的、抽象的な利益の侵害にとどまるものであり、これを超えて原告ら各自の特定の財産権に具体的な侵害を生ずるおそれがあるとは解されないから、この点に関する原告らの主張は採用できない。

2  そうすると、本件選挙の無効確認を求める原告らの訴えは、抗告訴訟としては不適法なものであつて、原告らの法律上の利益の存否にかかわらない民衆訴訟として、その出訴を許容する法律の規定が存在する場合に限り提起することができるものであるが、本件選挙については、土地区画整理法施行令によつて選挙又は当選の効力に関し、選挙人又は当選しなかつた者に対し、被告への異議の申出を認めるにとどまり、訴訟の提起を許容する法律の規定は存在しないから(この点に関しては、後に更に述べる。)、原告らの訴えは、これを不適法として却下すべきである。

二  原告増田、同高城の異議申出に対する被告の決定の取消請求について

1  本件選挙について、原告増田が選挙の効力に関する異議を、原告高城が当選の効力に関する異議をそれぞれ被告に申し出、被告がこれらを却下する旨の決定をしたことは当事者間に争いがない。

2  そこで、被告の右決定の取消しを求める右原告両名の訴えの適法性について判断する。

(一)  原告らは、右訴えが行訴法三条三項の「裁決の取消しの訴え」にあたり、抗告訴訟として適法である旨主張するが、右原告両名は、本件選挙の選挙人としての地位に基づいて右の各異議を申し出たものであり、被告の却下決定によつてはなんら具体的に自己の権利、利益を侵害されることはないから、右各決定の取消しを求める法律上の利益を有しないものといわなければならない。そして、この点についても原告らは前記した換地処分等の行政処分による財産権侵害のおそれを法律上の利益として主張するが、その主張の採用できないことは既に説示したとおりである。

(二)  つぎに原告らは、右訴えが民衆訴訟として許容される旨主張するので、この点を検討する。

土地区画整理法施行令四〇条は、第一項から第四項で選挙人又は当選しなかつた者が、本件選挙の選挙又は当選の効力に関する異議の申出をすることができる旨を定め、その手続及び異議に対する決定について規定したうえ、第五項において、「委員は、選挙又は当選の効力に関する異議の申出又は訴訟の提起に対する決定又は判決が確定するまでは、その職を失わない。」と規定している。

そこで、右の規定が、原告らの主張するように、選挙又は当選の効力に関する異議を申し出た者が、異議に対する決定を不服として訴訟を提起することを認めたものと解することができるかどうかが問題となるが、民衆訴訟は、裁判所法三条にいう法律上の争訟にあたらず、法律に特に出訴を認める旨の明文がある場合にはじめて許容されるものであるから、法律もしくは法律の具体的委任を受けた命令において、その出訴を許容する旨の明文がなければならないし、かつ出訴権者及び訴訟の被告となるべき者等が定められていなければならないと解される。

ところが、右施行令四〇条は、その文言からしても異議申出をした者に出訴を認め、その相手方等を規定していると解釈することはできないのみならず、土地区画整理法には右選挙に関し民衆訴訟を許容する旨の規定やこれを命令に委任する旨の規定は全く存在していないから、右施行令が原告らの主張する民衆訴訟を許容することは本来できないものといわざるをえず、右施行令四〇条をもつて本件選挙の選挙又は当選の効力に関する異議を申し出た者に対し民衆訴訟を許容したものと解する余地はない。

(三)  そうすると、原告増田、同高城の訴えも不適法として却下を免れない。

三  以上によれば、原告らの本件各訴えは、いずれも不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行訴法七条、民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 柴田和夫 寺尾洋 亀田廣美)

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